バライロノヒビ

絳攸がそっと手を触れれば、白く柔らかなそれはくにゃりと形を変えた。
しっとりと掌に吸い付くような感触に、絳攸の口から溜息がこぼれる。
｢秀麗、すごいな……｣
思わず力を込めてしまった絳攸に、秀麗が首を横に降る。
｢絳攸さま、もっと、優しくしてください……｣
その言葉に絳攸は慌てて手を緩めた。
｢……すまん。あまりに柔らかくて｣

「お前いかがわしい書き方をするな！　というか書くな！」
絳攸は手にした書物をビリビリと破って、楸瑛に投げつけた。
「ひどいよ絳攸。私は見たままに書いただけで。大体私が自分の日記に何を書こうが自由じゃないか」
にやにやと笑いながらそう言う事で絳攸の怒りが増すとを解っていて、楸瑛はわざとそうした。
怒れば怒るほどに楸瑛を面白がらせるだけだと言う事を、絳攸はきっと一生気付く事はない。
「そもそも人の邸で覗き見したことを日記に書くなんて、悪趣味にも程がある」
怒りながら絳攸は、吏部とは逆の方向へ去っていく。
「招待してくれたのに、二人で厨所に籠ったきり帰ってこない君が悪いんじゃないか。それに今君が破ったのは写しだから、原本はしまってあるからね。あとそっち後宮だから」
「楸瑛、歯をくいしばれ！」

あんたら、いいから仕事してくださいとは言えない官吏の視線に、二人が気付く筈もなかった。

【了】


前半がえらいえろいと評判だったあれ
後半たしてみた

[8回]