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金魚花火 【絳攸×秀麗】 

こんばんは
小鈴です。

8月4日は浴衣の日
でした。
うん。さっき終わったからね。

なんだ、このこの前と同じパターン。
23時に取りかかったりするからいかんのだ。
午前11時にだな、取りかかれば。

たら
れば
ばっかりで嫌になっちゃう。

そんなわけで
浴衣秀麗とスーツ絳攸です。
年齢差とか適当なり。

社会人絳攸さん
大学生秀麗ちゃん

李姫久々でした。
お正月以来かね?

ブログに投下するのは楽で良いです。


SSはいつも通り畳んであります。

金魚花火

金魚花火

午後五時半。
約束通りの時間に、自動ドアから現れたその人の名を秀麗は小さな声で呼ぶ。
その声だけで、彼を振り向かせるには十分だった。
十日ぶりに見るその顔につられるように、秀麗も思わず破顔する。

「秀麗、待たせたか?」
本当は、三十分ほど前から此処にいたのだけれど、それは絳攸には内緒にしておく。
むしろ、あと三十分ほどは待つ事を覚悟していたのだ。
それでも、約束の三十分も前からこの場所にいたのは、ただ単純に、彼の事だけを考えて待つ時間すらも愛しいと秀麗が思っているからだ。
「いえ。絳攸先生こそ、お仕事大丈夫でしたか?」

研究職である絳攸は、殆ど会社に泊まり込みに近い生活をしているから、いつもはこんな明るい時間に帰る事など無い。
無理をして抜けてきたのではないかと心配になったのだけれど、どうやら絳攸は別の事が気にかかったらしい。

「秀麗。呼び方、また戻っているぞ」
幾分拗ねるような言い方になってしまった事に、絳攸自身が驚いたのだが、秀麗の方は気にした様子も無く、可愛らしい口元に手をやって「すみません」と言った。


絳攸が秀麗に出会ったのは、今から三年ほど前の春だった。
高校三年生になった秀麗の家庭教師をする事になったのだ。
絳攸と同じ大学を目指しているのだと、真っ直ぐな目で言われた。

今にして思えば、その視線の熱に、一瞬で融かされたのだけれど、当時から研究三昧で恋愛などまともにした事も無かったし、何より分野は違えども尊敬する教授の愛娘という事もあって彼女が無事に合格するまでの十か月余りを、家庭教師と教え子以上にはなれずに過ごした。

「また会えますか?」
そう切り出したのは、秀麗の方だった。
その年修士課程に進んだ絳攸は、あと一年は大学院に行く事になっていた。
だから、
「図書館とか学食で会うかもしれないな」
と返事をした。

その後、自称親友の楸瑛に何故だか根掘り葉掘り聞かれた上に、いつもより五割増しの間の抜けた顔で
「絳攸、君は、もしかして馬鹿なの?」
と言われ、とりあえず鉄拳制裁をお返しした絳攸だったが、無事に秀麗と「おつきあい」を始めるに至った今では、ほんの少しだけ楸瑛に感謝もしているのだ。


そんなわけで、出会った当初からの癖が抜けきらず、秀麗は未だに、絳攸先生と呼ぶ。

先生と呼ばれるたびに、居心地の悪さを感じる絳攸は、絳攸と呼び捨てにしてくれるようにと伝えているのだが、少し会わない日が続くと、すぐにまた絳攸先生と呼ばれてしまうのだった。

この件に関して、秀麗はもっと重大さを理解するべきだ。
そう思った絳攸の胸に、少しの悪戯心がわき起こる。

「秀麗、ちゃんと呼んで」
拗ねたようにして、そう言うと、絳攸の狙い通りに、秀麗の頬にさっと朱が差す。

深い紫の地に染め抜かれた白い花の柄の浴衣は、今日の花火大会の為に着てきたのだろう。
まだ傾ききらない太陽と、涼やかなその姿の対比はくらりとするようだ。
普段は下ろされている艶やかな黒髪は、今日は纏めあげられて、そこに挿されたかんざしが揺れる様すらも愛おしい。

花火大会など行かないで、このまま自分の部屋に連れて帰ってしまおうかなどと、普段の自分なら思う筈もない欲望が覗くのも、全て秀麗のせいだ。

「秀麗は、俺の名前を呼んでもくれないのか」
わざと目を伏せるのも忘れない。

俺はとっくに、嵌っている。
自分だけ逃げようだなんて、そんな事許せるわけがないだろう。
鞄を持った左の掌が、じわりと汗ばんだけれど、絳攸も今更引く事は出来なかった。
頬を染めた秀麗に、可愛らしく睨まれたところで、だ。

秀麗は意を決したのか、小さく息を吐くと、絳攸のスーツの裾をつんつんと引っ張った。
どうやら、自分の腰かけている階段状のベンチに、絳攸も座れという事らしい。

素直に従いながらも、絳攸の鼓動は秀麗に聞こえるのではないかというほどに早くなる。
子どもの様な我儘を言って、嫌われたのではないだろうか。
心の中にぽとんと落ちたインクが、白い紙にじわじわと広がっていくように、絳攸の心を不安が支配し始めた時だった。
「絳攸」
息がかかるほどの距離で、囁かれる。
「……言いました。もう、イジワル」
そう言ってそっぽを向いてしまった秀麗の、首元までも夕日に照らされたようだと思った絳攸だったけれど、自らもまた同じという事には気付く筈も無かった。


【了】


なんか絳攸がアキくんぽいのは気のせいです。
気のせいなんだからね。




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